2003年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年に入っています。先週(d)と今週(e)の記事をご紹介します。「日本の企業」「標準化」「ネットワーク」「性能評価」「アメリカ政府の動き」などです。

富士通はSPARC V9に基づくSPARC64Vを初めて製造し、これを搭載したPRIMEPOWERをHPCの主軸に据えます。2011年に動き始める「京」もこの系譜です。

日立は、dual coreのIBM POWER4+/5/5+を搭載したSR11000の販売を始めました。

日本電気はSX-6の改良版を出すとともに、Itanium 2搭載UnixサーバNX-7700シリーズ、Express5800/1000シリーズ、TX7シリーズの新モデルを販売開始しました。

日本のDRAM事業を結集したエルピーダメモリ社は日本唯一のDRAMメーカとなりました。なお、Elpidaの由来はギリシャ語のέλπις(希望)で、έλπιδαはその単数対格形なので、「希望に向けて」というような意味です。でも希望は実現するのでしょうか??

標準化ではGGF7が新宿の京王プラザホテルで開催されました。グリッドの最盛期でした。

アメリカ政府関係では「打倒、地球シミュレータ!」の動きが目立ちます。1990年代に始まった国家戦略としてのHPCは、さらなる展開が始まります。そのためのアメリカ国家戦略を練る動きが始まりました。
NTSCの「最先端コンピューティング再生タスクフォース(HECRTF)」と
アメリカ科学アカデミーの「スーパーコンピューティングの将来に関する委員会」と
JASONの「Requirement for ASCI」です。

これらの動きは早速DOEの計画に組み入れられ、地球シミュレータの5倍の計算能力をもつスーパーコンピュータを開発すると宣言します。ただ、議会はなかなか予算を通しません。会計年度に入ってから、少し減額して通しました。

DOEは革新的な大規模計算科学プロジェクトを支援するために、公募制の資源提供プログラムINCITEを始めました。本年は52件の申請から3件だけ採択しました。SciDACと異なり狭き門です。

DARPAはHPCSプロジェクトのPhase IIとして、Cray社、IBM社、Sun社の3社を選定しました。Cray社はCascadeを、IBM社はPERCSを、Sun社はHeroを提案しました。Phase Iに参加していたHP社とSGI社は落ちました。次のPhase IIIでは2社に絞ります。また、HPCSプロジェクトの一環としてHPC Challenge Benchmarkを提案しました。

NSFはTeraGridの資源提供の公募を始めます。これは大小の種々の規模の提案を受け付けます。

次回は、アジア太平洋やヨーロッパの政府の動きと、世界の学界の話題です。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫