1999年のHPC(その五)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、12月18日に1999年を終了しました。先週と今週の記事をご紹介します。SC99の「その二」と、アメリカの企業の動き、その他の企業の動き、企業の創業と終焉です。

11月19日(金)のパネルの一つ“Meet the CTOs”では、日米スーパーコンピュータ9社のCTOがパネリストとして、各社の製品の動向を解説しました。米国メーカはそれぞれ個性豊かなプレゼンを行っていたのに対して、日本の会社は「くそ真面目」(失礼)な説明を行いました。

Gordon Bell賞は、Peak Performance 1件、Price/Performance 1件、Special 2件がfinalistsとしてプレゼンを行いましたが、全部をしかもすべて1位として表彰しました。HPC Gamesでは、電総研を含む欧米日の合同チームが最高賞を取りました。

Top500では、相変わらずASCI Redが1位を保持し、ASCI Blue PacificとMountainがそれに続きました。本当は逆のはずです。東大のSR8000は5位、京大のVPP800は15位でした。台数では、初めてIBM社がトップとなり、SGI/Crayを抜きました。もちろんRmaxの累計では依然SGI/Crayがトップです。

遅れに遅れていたIntel社のIA-64プロセッサMerced(コード名)は、7月にtape-outしたと発表され、10月にはItaniumという名称も発表されました。Monterey/64はMerced上で動く最初の商用Unixと発表されましたが、Linuxや64-bit Windowsも動いているとか。2000年半ばに量産が始まるとのことですが、みな眉につば。Compaq社は情勢を見て、自社版のUnixであるTru64 UnixをMerced上で稼働させる計画を中止しました。

他方AMD社は、10月、64ビットプロセッサSledgeHammer(コード名、後のOpteron)のOSとして、x86アーキテクチャの64ビット拡張であるx86-64を発表しました。TFPと呼ぶ新しい浮動小数命令(対応するレジスタ)も入っています。Intel社はこれを「革新性がない」と批判しましたが、結局この路線に乗ることになります。

IBM社は前年発表したPOWER3を搭載した並列コンピュータRS/6000 SPを発表しました。さらに10月にはPOWER4プロセッサを発表します。Merced対抗と報じられました。12月、同社はBlue Geneという超並列コンピュータをMD用に開発すると発表しました。1 PFlopsで500 GBメモリというあまりの常識外れに驚きました。SGI副社長も「この提案は珍奇であり、実現は疑わしい。」「今まで馬鹿でかい数のCPUをもつ大規模コンピュータはしばしばアナウンスされて来たが、実現したものは少ない」と批判しています。さて、どうなるか?

Burton SmithのTera Computer社はついに8プロセッサのMTAをSDSCに設置し、SDSCは16プロセッサへのアップグレードを発注しました。CMOS版のMTA-2のプロセッサもtape-outと発表されます。お金も集まっています。

Grid関係ではParabon Computation社とUnited Devices社とGridware社が創業されます。イスラエルではMellanox Technologies社が、ハルマゲドンで有名なメギド山の近くで発足します。特記すべきことは、量子アニーリングに基づく量子コンピュータを開発するために、カナダでD-Wave Systems社が創業されたことです。2011年にD-Wave Oneを発表します。

さて、次回は1月で、二十世紀最後の年2000年に入ります。Tera Computer社は、SGIからCray Divisionを名前ごと買い取り、Cray社と改名します。

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小柳義夫