2001年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan
https://www.hpcwire.jp/ に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに21世紀に入っております。先週(c)と今週 (d)の記事をご紹介します。「国内会議」「日本の企業の動き」「標準化関係」「ネットワーク」です。

前年頃から私はRISTの「次世代型計算科学技術」関係のプロジェクトへの参加を依頼されて喜んで活動していましたが、これが「次世代スーパーコンピュータ」つまり「京」に向かう動きであることは、当時あまり分っていませんでした。

HAS研(Hitachiアカデミックシステム研究会)は、新世紀初頭ということで特別シンポジウム「国産コンピュータ~その熱き誕生のドラマ=新世紀に引き継がれる最先端技術開発の魂=」を開催しました。ビッグネームの方々が回顧講演をしました。聞きたかった。

8回続けて来たJSPP主催PSC(並列ソフトウェアコンテスト)は、所期の目的を果たしたとして今回で終了することとしました。「対象が分かりやすく(場合によって高校生にも)、並列化の工夫が楽しめ、規模や難易度の違う問題の生成が並列コンピュータ上で容易で、結果の客観的な評価ができるような問題」のネタが尽きたという事情もありました。

日本電気はベクトルコンピュータSX-6を発表しました。CPUは地球シミュレータと同じですが、筐体は全く違います。また地球シミュレータは、主記憶として富士通製のFPLという128Mbの高速DRAMを使っていましたが、商用版のSX-6では、通常の256MbのSDRAMを搭載しています。ヨーロッパやカナダを含め、多数設置されました。Cray社もOEMで北米に売ることになりました(後述)。

富士通がSPARC64に基づくスカラ型スーパーコンピュータを開発していると報道されており、ベクトルコンピュータの開発からいずれ手を引くのではないかという噂が出ていましたが、関係者は断固として否定していました。撤退が表明されるのは2002年1月5日です。

東芝はDRAMから撤退を表明しました。日本は各社とも厳しい収支予想で、人員削減が必至です。

ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM社、東芝の3社は、次世代のブロードバンド・ネットワークの基盤となる、汎用プロセッサCellの開発に着手すると発表しました。Supercomputer-on-a-chipではないかという観測もありましたが、私はこれがPFlopsを実現する世界初のマシンにつながるとは予想もしませんでした、

グリッド標準化では、世界を統合したGGF (Global Grid Forum)が活動を開始します。

日本で、三好甫先生を中心に進めていたJAHPF(HPF合同検討会)は終了を発表し、新たに高性能Fortran推進協議会を発足させます。

さて、次回は「2001年(e)」で、アメリカ政府の動き、日米貿易摩擦の行方、各国の動きなどです。新生Cray社が宿敵日本電気と劇的な提携を発表します。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。ご愛読を感謝します。

小柳義夫