2002年のHPC(その二)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、2週間前から2002年に入りました。先週(b)と今週(c)の記事を紹介します。「日本政府関係の動き」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」「国内会議」です。
第2期科学技術基本計画に則り「新世紀重点研究創生プラン(RR2002)」が5年間の予定で始まりました。情報通信分野(ITプログラム)のプロジェクトでは、「世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト」が6件、「「eサイエンス」実現プロジェクト」が3件、計9件採択されています。今年度予算は369億円。
文部科学省は各自治体からの事業構想の提案に基づき、「知的クラスター創生事業」の実施地域として、12地域10クラスターを選定しました。また、「世界的研究教育拠点の形成のための重点的支援-21世紀COEプログラム-」を募集し、9月30日に113件を採択しました。私のいた、東大情報理工学系研究科から提案した「情報科学技術戦略コア」(リーダー田中英彦)も入っています。
航空宇宙技術研究所(NAL)は数値風洞NWTの運用を停止し、PRIMEPOWER HPC2500を中心としたCENSSシステムを導入しました。NWTは合計18回Top500に登場し、トップ4回、2位3回、3位1回でした。圧巻です。
経済産業省の「次世代情報処理開発機構(RWCP)」の最終評価を行うことになり、評価委員長を仰せつかりました。よい評価結果は出ましたが、通産省・経産省系の情報分野の大規模なプロジェクトはここで途切れてしまいました。背景には、バブル期に企業が政府の資金を必要としなくなったこと、ITバブルの崩壊、コンピュータ開発の中心が科技庁・文科省に移ってしまったことなどいろいろは事情があると思われます。その後「情報大航海」があります。
JSTの事業「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(研究総括は土居範久)がCREST・さきがけ混合型領域として始まりました。
学術振興会未来開拓「計算科学」の最後の国際シンポジウムが開かれました。5プロジェクト中、1997年に発足した4プロジェクトは3月末で終了しました。牧野淳一郎らは、この活動の一環として、GRAPE-6を2002年完成させ、翌年Gordon Bell賞を受賞します。
なお「情報科学技術委員会」のところに「会議記録は残っていない」と書きましたが、村上弘氏からWARP(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)に一部収録されていることをご教示いただきましたので、後日補足したいと思います。
日本の学界では、昨年発足したPCクラスタコンソーシアムは、第1回シンポジウムを開催しました。グリッド協議会は、設立総会および記念講演会を開催しました。
東京工業大学松岡聡研究室は、ベストシステムズ社との共同研究として、Presto IIIを完成させました。6月のTop500では47位でしたが、AMDチップのクラスタとしては世界2位でした。
情報処理学会は、2002年2月号(Vol.43 No.2)の会誌『情報処理』で「特集:知られざる計算機」を掲載しました。知られているものもありますが。
記事に書いたような経緯で、学習院大学で公開シンポジウム「科学とこころ-科学、価値観、知識の限界」を行うことになり、仏教の立場から「科学と宗教」を語れる講師探しに苦労しました。佐藤哲也氏が推薦されたので依頼しましたが、氏自身の科学観を語るのみで仏教・真言宗とどう関係するかには触れませんでした。主催のSSQ IIからは不評でした。
国内会議としては、HPC研究会発足10周年を記念してHPCSが始まりました。Hokkeは一部泥流に覆われていた洞爺湖町で開かれました。SWoPPは湯布院。
次回は日本の企業の動きと標準化やネットワークなどです。
総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。
小柳義夫