2002年のHPC(その三)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、4週間前から2002年に入りました。全13回です。
先週(d) は「日本の企業の動き」「標準化」「ネットワーク」「性能評価」で、今週(e)は「アメリカ政府の動き」です。2回分の記事を紹介します。
富士通はベクトルスーパーコンピュータの開発から撤退し、高度なSPARC64によるスカラスーパーコンピュータに転換すると発表しました。日本電気は、地球シミュレータを稼働させるとともに、次のSX-7を発表しました。
日本の半導体メーカ11社が計18.5億円を出資し、国費315億円を投入して、ASPLAを設立し、90nmテクノロジの300mmウェファ製造に取り組みました。2005年には解散しましたが、果たして半導体産業に、これに見合った効果はあったのでしょうか。さらに高額の国費を投入する半導体開発が進められている現在、心配になります。
Gridの標準化を目指すGGF (Global Grid Forum)は3回開催されました。IBM社が突然提案したOGSA (Open Grid Services Architecture)が新しい標準となり、Gridの様相が一新しました。資源よりサービスに着目するグリッドは、メインフレームの思想と親和性があるのでしょうか。日本でも、INSTAC(日本規格協会情報技術標準化研究センター)がグリッド標準化調査委員会を発足させ、不肖私が委員長となりました。この結果なんと、平成22年2月22日(2並び)に、JIS X7301として制定されます。Gridを国家規格(de jure)にしたのは日本だけでしょう。
アメリカ政府関係では、NSF、DOE、DARPAがそれぞれHPCを推進しています。
NSFは、PACIからTeraGridに転換します。TeraGridはIBM社製のItanium 2クラスタを5機関に分散配置し、高速ネットワークで相互およびユーザと接続するものです。アメリカ中のアカデミアのユーザに共同利用されます。
SDSCは、前年、創立者であるSid Karinセンター長が、Fran Berman氏に代わり、Big Iron路線からクラスタ・グリッド路線に変わります。MTA-1も撤去されます。クラスタ構築ツールRocks 2.2.1が発表され、SC2002でもデモを行いました。
CTC (Cornell Theory Center)は、LinuxではなくMicrosoft Windowsで大規模サーバを構築しています。
DOEではASCIの4番目ASCI Qは30 TFlopsクラスで、DEC Alpha EV68 (1.25 GHz)ベースですが、最初から地球シミュレータの後塵を拝し、意気が上がらないようです。とりあえず、1/3規模のマシンが2台できました。翌年、これを結合して20 TFlopsのマシンを作りますが、フルスケールのマシンはついに登場しなかったようです。
ASCIの名前が冠されているのはQまでで、2004年以後はASC (Advanced Simulation and Computing Program)に変わります。文献では徹底されていないので、わたしの記事でも混在しています。100 TFlops級のASC PurpleはIBM社が受注します。また、ASCの新顔としてBlue Gene/LおよびASC Red Stormが予告されます。
オープンなDOEセンターであるNERSCのSeborgは隣町Oaklandで動いていますが、Seaborg IIへの増強計画が発表されました。
Linux Networx社は、Itanium 2を搭載した大規模クラスタを諸研究所に設置しました。
DARPAはHPCS(高生産性コンピューティングシステム)というプログラムを始めました。Linpackがベンチマークとして十分ではないという主張は分かりますが、では「生産性」をどう定義するのか。
テーマ別の実用グリッドの計画がいろいろ発表されています。
次はアジアやヨーロッパの動きと、世界の学界の動きなどです。
総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。
小柳義夫