2002年のHPC(その五)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/に掲載中の『新HPCの歩み』は2002年の後半にきました。先週(h)はISC2002、今週(i)はSC2002の「その一」です。2回分の記事を紹介します。
この年、わたしはISC(2000年まではMannheim Supercomputer Seminar)に初めて参加しました。会場は、昨年から古都Heidelbergです。現在とは異なり、参加者は367人、展示は25件という小規模な会で、投稿論文もなくsingle trackでした。会期は19日水曜夕方から22日土曜まででした。木金土にはそれぞれ基調講演がありました。
第19回目のTop500リストはISC2002の開会式(6月20日)の最中に発表されました。言うまでもなく横浜の地球シミュレータは35.86 TFlopsでダントツの1位でした。これはNo.2のIBM ASCI White (LLNL)の約5倍です。このように5倍もの性能比で1位に登場したのはTop500の歴史上初めてとのことです。地球シミュレータの性能は2位から13位までの12システムの性能合計に匹敵しています。地球シミュレータは、合計5回、トップに君臨します。
6月21日(金曜日)に、ペタスケールについて、2つの講演がありました。Masao Fukuma (NEC)(福間雅夫か、要確認)は、SX-4に始まるCMOSベクトルと地球シミュレータの紹介を行い、「半導体の微細化は進んでいるので、30 nmなら1 MWで1 PFlopsを実現できる。問題は、酸化膜の薄さ、リーク、リソグラフィである。」と述べました。
Rick Stevens(ANL)は、「Mooreの法則により、放っておいても2015年ごろにはできるが、2007年ごろに実現するにはどうしたらよいか。」と問題提起を行い、「いろんなアプリの分析がなされたが、結局、演算性能増大に伴い、メモリ総量とメモリバンド幅がどうスケールするかが問題である。」と総括しました。
SC2002は”FROM TERABYTES TO INSIGHTS”のテーマのもとに、Washington DC郊外のBaltimoreで開催されました。参加者は(展示だけを含み)7200人でした。ここでも地球シミュレータが話題となりました。21日木曜日の招待講演で佐藤哲也センター長が講演を行いましたが、「利用時間の25~30%が所長留め置きで国際協力に使うんだ」というあたりで会場が沸きました。「地球シミュレータのインパクト」のパネルは次号で。
Cray社のSteve Scottは、同社の(独立マシンとしては)最後のベクトルとなるCray X1を紹介しました。「X1はXMP, YMP, C90, T90, SV1のPVP (parallel vector processor)の路線と、T3D, T3EのMPP (massively parallel processor)の二つの路線を統合したものであり、両者の長所を兼ね備えている。」と解説しましたが、わたしはちょっと疑問を抱きました。Killer Microsを使っていないからです。「裸のチップに冷媒を直接吹き付けて気化熱で冷却する新技術」には驚きましたが。
IBM社のPeter UngarroはASCI Purple(登場ににはASC Purple)とBlueGene/Lの紹介を行いました。このUngarroはその後Cray社に移籍し、CEOとなります。
エネルギー省の第14代科学局長(Director of the DOE Office of Science)のRaymond L. Orbachは、「先端計算と科学的発見」と題して、超大規模計算のもたらす興奮について語りました。この講演でも、次のJulian Borrill (LBNL)の講演でも、重力波の検出には大規模なシミュレーションが欠かせないことを論じていました。重力波の検出の発表は2016年でした。
来週はSC2002の「その二」です。
総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。
小柳義夫