2003年のHPC(その五)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年の話題を終わりかけています。先週(h)と今週(i)の記事をご紹介します。ISC2003と、SC2003の「その一」です。

最初から余談ですが、先週以来、ノーベル物理学賞と化学賞が「AI祭り」だと報道されています。物理学賞と、化学賞の半分のGoogle DeepMind社のDemis Hassabis and John M. Jumperとは確かにAIです。でも、化学賞のもう半分のDavid Bakerの受賞理由は“for computational protein design”で、最初の業績は2003年のTop7という人工タンパク質の設計です。これは現在のAI以前で、むしろシミュレーションの成果と思われます。もちろんBakerもその後はAI関連の分野で活躍しています。言いたいことは、AIの基礎にはシミュレーションも重要な役割を果たしている、ということです。いずれにせよ、(広義の)計算科学がノーベル賞を飾るのは喜ばしいことです。

さて本題です。ISC2003(Heidelberg、記事では綴りを間違えました)では、昨年に引き続いて地球シミュレータのインパクトや意義の議論が続いています。

Horst Simonは「アメリカのコンピュータ産業はコマーシャルな応用が支配し、大規模計算を必要とする科学者コミュニティーの要求には焦点を当てていない。」「日本政府は科学計算に投資するという責務にコミットしている」と語りました。

Thomas Sterlingは、「アーキテクチャとソフトウェアとの同時かつ相互依存の革新が必要」と述べました。

SC2003(Phoenix)では、地球シミュレータを凌駕するべきマシンとして、IBMはBlueGene/Lを、CrayはRed Stormを展示しました。

Petaflops Workshopが3コマ連続で開催されました。Jim Tomkins (SNL)は、2010年には10-12 GHzのプロセッサが登場すると述べましたが、外れました。三浦謙一(富士通)は、PrimePowerを改良すればPFlopsまで行けると豪語しました。Hans Zimaは「HPFの夢よ、もう一度」というような話でした。Kathy Yelickは、ペタスケールでは、MPIに変わって大域的アドレス空間言語(今ならPGAS)が重要になると述べました。

11月のTop500では中国科学院計算机網路信息中心のDeepComp 6800 (Itanium 2+QsNet)が14位にランクしました。Top20の中国機は初めてです。地球シミュレータは4回目のTopを確保しましたが、Top100に入った日本設置のマシンはわずか6件になってしまいました。

次回は、SC2003(その二)で、企業のExhibitor Forumの話題と、各種の賞、パネル討論会などについてです。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫