2004年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の出来事を述べています。先週の(d)では、日本の学界の動き(その二)と国内会議、今週の(e)は日本企業の動きです。

大きな出来事の一つは、ファイル共有ソフトWinnyの作成者である金子勇氏が逮捕されたことです。Winnyを使って違法なファイル交換を行ったものを逮捕するのはともかく、そのシステム作成者を逮捕するとは、京都府警も何を考えていたのか。2年間の25回の公判の末、罰金150万円の一審有罪判決が出ました。ところが高裁では無罪となり、最高裁も検察側の上告を棄却しました。晴れて無罪の身となったものの、逮捕、拘留、起訴、裁判がストレスとなったのか、2年もたたないうちに急逝されます。日本のインターネット界は貴重な人材を失いました。

もう一つの事件は、日本応用数理学会など300の学会が事務の一部を委託していた日本学会事務センターが、学会からの預り金を流用して破産した件です。私は当時日本応用数理学会の副会長をしており、この件で走り回りました。当学会は約600万円の債権が焦げ付きました。その日から路頭に迷った小学会もあったとのことです。

4月には、世界初のグリッドだけのイベントGrid World 2004が東京ファッションタウンIFTホールで開催されました。参加登録3000人。

ハイパフォーマンスコンピューティング研究会は12月17日、記念すべき第100回(数値解析研究会からの通算)を迎え、ホテル東京KKR竹橋で記念研究発表会を開催しました。

日本電気はベクトルスーパーコンピュータSX-8を発表しました。最大のシステムはStuttgartのHLRSの576 CPUです。

富士通は、「ペタスケール・コンピューティング推進室」発足させ、2010年をめどに世界最高の3 PFlopsの性能を達成すると発表しました。

ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM社、ソニー、東芝は”Cell”に関する4編の論文を2005年2月6日~10日にSan Franciscoで開催されるISSCCで発表しました。

大日本印刷株式会社は、2004年6月、MATLABアルゴリズムをグリッド分散環境で高速に計算を行うことのできるソフトウェアAD-POWERsを開発したと発表しました。

次回(f)は年明け(おそらく1月6日)公開です。標準化とアメリカ政府の動きです。標準化ではGridの標準化の議論が進むとともに、アメリカでは「打倒地球シミュレータ」の動きがさらに活発となります。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫