2004年のHPC(その四)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の7回目となりました。先週の(f)では標準化とアメリカ政府の省際的な動き、今週の(g)ではアメリカ政府の各省の動き、ヨーロッパなどの動き、世界の学界の動きです。

Grid関係ではGGFが全世界協力して標準化を進めている折も折、世界の大手IT19社がEGA (Enterprise Grid Alliance)を設立しました。「スワ一大事、企業連合がGrid乗っ取りか!」と色めきました。GGFにも100社の企業が参加しており、ビジネス利用も当然視野に入れています。裏で何があったのかは知りませんが、結局両者は平和的に役割分担することになり、2006年には合併してOGFとなります。めでたしめでたし。

Fortran 2003は予定より遅れて、2004年11月15日に公表されました。オブジェクト指向プログラミングを大幅に取り入れ、C言語との相互運用機能が付加されました。それでもFortranです。

2002年に「打倒!地球シミュレータ」を打ち出したアメリカ政府は、諸施策を進めています。HECRTF(High End Computing Revitalization Task Force、最先端コンピューティング再生タスクフォース)は、「アメリカが今後科学技術でのリーダーシップを確保するための計画」を策定しました。アメリカはなんでも一番でなければ気がすまないのです。連邦議会はHigh-End Computing Revitalization Act of 2004を可決し、11月30日Bush大統領が署名して成立しました。

2005会計年度(2004年10月~2005年9月)予算において、研究開発(R&D)予算が増額されました。とくに、DOEは歴代最大の4%増で、最先端コンピューティングとそれによる科学研究に重点を置いています。DOEは5月NLCFという5年計画を公募し、ORNLとANLを採択しました。ASCIとは異なり、民生産業界への貢献をうたっています。他方、ASCIはASCとなり、Red StormとBlue Geneを軸に進みます。DOEは大規模資源提供プログラムINCITEを始めます。

NSFではPACIが終了し、Teragridがフル稼働に入ります。これは大規模だけでなく、中規模の資源も提供するプログラムです。

他方ヨーロッパでは各国のスーパーコンピュータを結ぶグリッドDEISAの予算が付きます。ドイツではJuelichにp690クラスタが設置され、HLRSにSX-6とIA-32/64クラスタが設置されます。

前年、1100台のG5 Appleを接続してTop500の3位を獲得したVirginia Techの”Big Mac”はAppleをXserve G5に更新して2004年11月に7位に入りました。これに刺激されて、San Francisco大学で、時間を決めて不特定多数の人がPCを持って集まり、Myrinetで接続しましたが、Top500の圏内に及ばず失敗しました。もし入っていたら、一瞬だけの性能をTop500に載せるべきか議論になったでしょう。

欧米の2つのグループが、量子もつれ状態にある原子2個の量子テレポーテーションに成功したと発表しました。量子コンピュータの重要技術です。

Mersenne素数は今や分散コンピューティングの独擅場となりましたが、2004年には41番目を発見しました。

次回(h)は国際会議です。筆者が組織委員長を務めたHPC Asia 2004は40℃近い灼熱の大宮で開催されました。ISC2004とSC2004はそれぞれ章を改めてレポートします。

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小柳義夫