2005年のHPC(その二)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、3月3日から2005年に入っています。12回連載の予定です。先週224回(b)と今週225回(c)の内容を紹介します。(b)は「次世代スーパーコンピュータ計画」の「その二」(夏以後)、(c)は「日本政府関係の動き」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」です。

議院連盟などの後押しもあり、「次世代スーパーコンピュータ計画」は平成18年度(2006年度)予算の概算要求に載りました。当然のことながら内容は非公開で、記事(a)に書いたように私も知りませんでした。「京速 (10 PFlops)」とともに、「ベクトル 0.5 PFlops、スカラ 0.5 PFlops、GRAPE-DR改良版20 PFlops (いずれもピーク性能)」というシステム構成案が漏れ聞こえて来ましたが本当なのか?

大型予算なので、総合科学技術会議みずからが評価を行う必要があり、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」評価検討会が設置されました。私も加わり、初めてこの計画にcommitすることになりました。予期していたとはいえ私が一番驚いたのは、突然示された「京速計算機システムの構成(イメージ)」でした。記事(b)のアイキャッチにも使われていますが、大規模処理計算機部(ベクトルコンピュータのことらしい)0.5 PFlopsと、逐次処理計算機部(スカラコンピュータ)1 PFlopsと、特定処理計算加速部20 PFlopsから構成されているハイブリッドシステムとなっています。文科省関係者の説明では、「これは汎用計算機なので、何にでも使えます。」とのこと。

これに猛然と食ってかかったのが岩崎委員(筑波大学長)でした。わたしも同調しました。「主要なアプリケーションにこのアーキテクチャがどう活用できるか分析されていない。」今の言葉で言えば、コデザインができていないと批判しました。この議論がその後どうなったかは記事をご笑覧ください。

10月にたまたまBerkeleyに行く用事があったので、NERSCで非公式セミナーを行い、この計画を公開情報の範囲で紹介しました。「2010年にベクトル?」と驚かれました。

すったもんだの末、復活折衝で「汎用京速計算機」が予算案に入りました。まずは一安心。

地球シミュレータプロジェクトの利用報告会が行われ、NAREGIシンポジウム2005が開催されました。産総研の生命情報科学研究センターには、4ラックのBlueGene/Lが設置されました。

筑波大学では、PACS-CSプロジェクトが始まるとともに、CP-PACSの終了式典が行われました。Top500には14回登場し、脱落してもまだ稼働していました。これはかなり珍しい。NWTの18回登場にはかないませんが。

2005年は、Albert Einsteinが3つの重要な論文(光量子仮説、ブラウン運動の理論、特殊相対性理論)を発表した1905年から100周年ということで、IUPAPが世界物理年と宣言しました。

来週は国内会議です。第4回情報科学技術フォーラムでは、『スパコン日本の時代は取り戻せるか』というパネルが企画され、筆者が司会を仰せつかりました。

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にあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫