2006年のHPC(その一)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日から2006年に入りました(手違いにより、アップロードが11時頃となったようです)。全13回の連載です。今週の記事を紹介します。「社会の動き」と「次世代スーパーコンピュータ開発」(その一)です。2006年は(後の)「京」コンピュータの基本設計が、「スカラ超並列とベクトル超並列のハイブリッド構成」に固まった重要な年です。

「社会の動き」もいろいろあります。この章は、何かの丸写しではなく、私が自分流にまとめたものです。印象的なのは「宇宙探査機New Horizonsの打ち上げ」です。2015年には冥王星を観測し、その後はUltima Thuleなど太陽系外縁天体を観測し、太陽系外に出ました。2025年現在まだ通信が続いています。皮肉なことに、発射後すぐ冥王星が準惑星に格下げになりましたが、無くなったわけではありません。Thuleというとゲーテのファウストの詩を思い出します。「Es war ein König in Thule,…(トゥーレの島に王ありき)」

1月4日、文部科学省に次世代スーパーコンピュータ整備推進本部が設置され、プロジェクトリーダー(研究振興官)として渡辺貞が着任しました。理化学研究所も、1月1日 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部を設置し、丸の内の明治生命館6階に丸の内拠点を設けました。3月末には政府予算案が成立し、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」の新法(共用法)が7月1日施行されました。

次世代スーパーコンピュータ開発戦略委員会の下に「アプリケーション検討部会」を設置し、設計のターゲットとする21種のアプリケーションソフトウェアを選定しました。2005年の総合科学技術会議の評価検討会で、文部科学省側が、「これは汎用スーパーコンピュータなので、どんなアプリにも対応できます」と主張しましたが、岩崎委員や私などが、アプリケーションとアーキテクチャは密接に関係しているので、連携開発(今の言葉ではco-design)が必要だと強調しました。今後はこの21本のソフトをベースに開発が進みます。

ナノとバイオの2つのグランドチャレンジアプリケーション研究も始まりました。いよいよアクセル全開です。

概念設計の経過は次回に書きます。多くの提案がありましたが、F案とNH案の2案に収束して行きました。

既発表記事の総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50history
にあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫