2008年のHPC(その五)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2008年の半ばまで来ました。先週の2008年(h) (第269 回)では「アメリカ政府の動き」を、今週の2008年(i) (第270回)では「ヨーロッパの政府関係の動き」、「中国の動き」、「インドの動き」と「世界の学界の動き」について書いています。お気づきと思いますが、中国などについては、政府の動きと企業の動きの区別が難しいので、一部まとめて書いています。

Bush大統領は、科学技術予算を7年掛けて倍増すると宣言しましたが、サブプライム住宅ローン危機などの影響で思うようには行きませんでした。ちなみに、リーマンショックの始まりは9月15日です。

LANLに設置する予定の、Cell B.E.を搭載したスーパーコンピュータRoadrunnerが6月、Linpack性能1.026 PFlopsを達成し、世界初のPetaflops machineとなりました。Cellは一種のPIM (Processor-in-Memory)で、同一チップ上に8個のプロセッサコアと高速メモリが搭載されています。ゲームマシンに使うようなコモディティのプロセッサ(正確にはその改良版)でPetaを達成したことは注目されます。ただ使い勝手は悪く、Cellの大規模マシンは、他にはほとんど設置されていません。ちなみに、Greater Roadrunner(オオミチバシリ)は、1949年、ニューメキシコ州の「州の鳥the state bird」に制定されました。

他方、Red Stormの商用版である同所のJaquarはCray XT5に更新され、11月、同じく1.059 TFlopsを達成しました。1999年頃はPFlopsを実現する技術として、「微細化の延長」「PIM」「HTMT」の3つの可能性が考えられていましたが、Jaquarは通常の微細化で、RoadrunnerはPIMと見ることができます。Tom Sterlingが提案し当時一番人気だったHTMTは結局実現しませんでした。

他方、NSF関係では、前年Track 1として発表されましたNCSAのBlue Watersは、POWER7ベースということ以外ほとんど情報開示がなく、闇の中でした。

Track 2の一つTACCのRanger(quad-core OpteronのMPP)は、2月稼働し、326 TFlopsを達成しました。もう少し早ければ、Topを狙えたかもしれません。他のTrack 2として、TennesseeのKrakenが稼働し、PSCのNUMAマシンPopleが発表されました。

ヨーロッパではPRACEの準備フェーズがスタートしました。正式発足は2010年。DEISA 2.0はその次の階層に位置づけられました。

ドイツのJülich計算センターにBlue Gene/P JUGENEが設置され、前年稼働しましたが、2月に披露式典が行われました。

イギリスEdinburghにはHECToRと命名されたCray XT4が稼働し、1月には盛大な披露式典が行われました。6月、Cray X2(コード名Black Widow、ベクトル演算器)のブレードが付加されました。世界初のX2ですが、Top500には登場しません。ORNLでも大規模なX2を導入する計画があったようですが、実現したかどうか不明です。

中国では、曙光信息産業有限公司(Sugon)が上海スーパーコンピュータセンターにDawning 5000A(愛称「魔方」 Magic Cube)を設置し、11月のTop500で11位(アメリカ以外ではトップ)にランクしました。中国の底力が次第に見えてきます。

中国では独自プロセッサのSunway(申威) SW-2や龍芯3号が開発されています。これを使ったスーパーコンピュータを構築すると豪語しています。

19世紀のBabbageが設計したが実現できなかった「階差機関2号機」が製作され、カリフォルニアのComputer History Museumで展示されました。1991年のロンドンに続いて2機目です。

この年、Satoshi Nakamotoの名前でBitcoinの論文が出ました。本名か、誰か、闇のなかです。しかし、早くも2009年1月には運用が始まります。

次回は、2008年(j)「国際会議」です。SIAM PPでアトランタに行ったら、竜巻とニヤミスをしました。

既発表記事の総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50history
にあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫