2000年のHPC(その一)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日から2000年に入りました。20世紀最後の年です。今号は、「社会の動き」「地球シミュレータ計画」「日本政府の動き(その一)」です。重複ご容赦。

「社会の動き」は、読み飛ばされている方が多いようですが、私としてはかなりリキを入れています。この年、小渕首相が緊急入院して内閣総辞職となりました。ノーベル賞は注目です:物理学賞にJack Kilby博士、化学賞に白川英樹教授、平和賞は金大中氏。京都賞はHoare教授です。

地球シミュレータは本体製作に入りました。谷啓二氏など関係者は、40 TFlopsの性能を世界中に発信していますが、「ベクトルで40テラ、まさか?」とあまり本気にされなかったようです。応用ソフトウェアの開発も進んでいましたが、岩崎洋一教授があるソフトの評価委員会から帰ってきて「超並列の怖さが分かっていない」と憤慨していたことを記憶しています。

政府の動きでは、国家産業技術戦略検討会の情報通信分野の戦略には、気象予測のスーパーコンピュータ性能を1000倍という数値目標が入っていましたが、内閣のIT戦略本部ではHPCに重点が置かれませんでした。HPCはITでないのか?!

文部省学術審議会に特定研究領域推進分科会情報学部会が設置され、提言に「新たなアーキテクチャに基づく超高速・超大容量計算機システムの実現に関する研究を推進する。」と入れることに成功しました。

情報科学技術部会の諮問第25号への答申のささやかな成果である振興調整費「情報科学技術」では、3つの課題が5年計画で始まりました。私は、「科学技術計算専用ロジック組込み型プラットフォーム・アーキテクチャに関する研究」(代表、村上和彰)の研究計画策定WGの主査を務めました。分子軌道計算専用のLSIを開発したのですが、汎用CPUの進歩との競争に苦戦しました。LSI開発のためにアルゴリズムを改良すると、汎用CPUでも速くなるというジレンマも。

国立情報学研究所は4月、一ツ橋に開設されましたが、猪瀬博所長は10月に心臓疾患でなくなられました。

さて、次回は学会誌『情報処理』上で、Interactive Essay「これでいいのか? 日本のスパコン」が激論を交わします。

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小柳義夫